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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)12392号 判決

第八七一五号事件原告 第一二三九二号事件被告 末広食品工業株式会社

右代表者代表取締役 神倉信次

右訴訟代理人弁護士 田中紘三

第八七一五号事件被告 第一二三九二号事件原告 髙橋工業株式会社

右代表者代表取締役 髙橋健

右訴訟代理人弁護士 的場悠紀

同 木村保男

同 川村俊雄

同 大槻守

同 松森彬

同 萩原新太郎

主文

一  第八七一五号事件原告の請求をいずれも棄却する。

二  第一二三九二号事件被告は、同事件原告が別紙物件目録記載の物件につきコンベアベルト間の間隔四四ミリメートルを六五ミリメートルに修正する工事を完了したときは、同事件原告に対し金二三〇〇万円を支払え。

三  第一二三九二号事件原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は全部第八七一五号事件原告(第一二三九二号事件被告)の負担とする。

事実

(申立)

第八七一五号事件について

一  原告

1  被告は原告に対し別紙物件目録記載の物件を収去せよ。

2  原告の被告に対する前項の物件の買受代金債務二三〇〇万円が存在しないことを確認する。

3  被告は原告に対し、昭和五六年七月二一日から、債権者を被告、債務者を原告、第三債務者を株式会社群馬銀行及び伊勢崎信用金庫とする大阪地方裁判所昭和五六年(ヨ)第二八一五号債権仮差押事件の執行取消があるまで、一年につき金六〇万円の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  1、3項につき仮執行宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第一二三九二号事件について

一  原告

1  被告は原告に対し金二三〇〇万円及びこれに対する昭和五五年一二月八日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(主張)

以下、第八七一五号事件原告、第一二三九二号事件被告を「原告」、第八七一五号事件被告、第一二三九二号事件原告を「被告」という。

第八七一五号事件について

一  原告の請求原因

1  原告は、蒸しぎょうざ、しゅうまい、肉巻などの各種即席惣菜を製造しこれを冷却パックして各地の食料品店等へ販売すること等を業とする会社であり、被告は冷凍機械の製造販売を業とする会社である。

2  原告は、昭和五五年六月頃、被告(東京支店扱い、以下同じ)に対し、しゅうまい、肉巻の自動式冷却装置の設計、設置納入を依頼したところ、被告は、スパイラル式三〇R型トンネルフリーザーシステム(以下「本件フリーザー」という。)を設計し、同年七月八日原告に対し見積仕様書を提出した。その際被告は、「本件フリーザーは特殊仕様の新規開発品であり、その能力等についての事前の実験データを示すことはできないが、原告が必要とする能力を有することを保証する。」と述べた。

3  原告と被告は、同月中旬頃、本件フリーザーの設置に関し、次のとおり合意した。

(一) 被告は、本件フリーザーを群馬総合リース株式会社(以下「リース会社」という。)に対し二三〇〇万円で売り渡す。代金支払方法等売買取引条件は被告がリース会社と別途合意したところによる。

(二) 原告はリース会社とリース契約を締結し、本件フリーザーをリース会社から借受ける。リース料の支払方法等リース条件は原告がリース会社と別途合意したところによる。

(三) (一)の売買契約、(二)のリース契約の前提として、被告は本件フリーザーを瑕疵のない状態にして原告の東村惣菜工場内に設置する。

4  被告は、右合意に基づき、納入場所を原告方東村惣菜工場としたうえ本件フリーザーをリース会社に売り渡すことを予定し、その売渡しに先立ち同年八月中旬からリース契約の予定先である原告の東村惣菜工場で本件フリーザーの設置工事を開始し、同年九月八日頃これを一応終了した。

5  原告は、被告立会のもとで試運転をしたところ、本件フリーザー内をコンベアベルトによって搬送される製品がベルトから落下することを発見した。

被告は、ビニール製ひも、ステンレスベルト等で応急措置をしたが、製品がその応急措置部分にひっかかって流れがとまり、ぶつかりあって形がくずれたり、ベルトから落下するなど、かえって悪い状態になった。また落下した製品によって本来清潔であるべきフリーザー内部に雑菌が発生し、本件フリーザーを使用して製品化したものはすべて雑菌によって汚染されてしまい、腐敗による返品が相次ぐ状態になった。

このような事態は、被告がコンベアベルト上を搬送されてくる製品の状態を無視して設計したために生じたもので、被告はこれを解消するためフリーザーの設計をやりなおし、改造しなければならないのに前記応急措置をしただけでその義務を怠り、その所有にかかる本件フリーザーを放置して原告が賃借している工場の一部(縦四・五メートル、横二・五メートル、面積一一・三六二五平方メートル)を占有している。

よって賃借権に基づく妨害排除請求権に基づき本件フリーザーを撤去することを求める。

6  被告は、リース会社に対してならともかく、売買契約の当事者ではない原告に対し本件フリーザーの代金二三〇〇万円の支払いを求めている。よって右売買代金債務がないことの確認を求める。

7  被告は、原告に対し本件フリーザー代金を請求することができないにもかかわらず、昭和五六年七月一七日、大阪地方裁判所昭和五六年(ヨ)第二八一五号債権仮差押申請事件により仮差押決定を得て原告の群馬銀行、伊勢崎信用組合に対する預金債権一二〇〇万円につき仮差押執行をした。そのため原告の預金は拘束され、仮差押執行の取消があるまで民法所定年五分の割合による年額六〇万円の損失をこうむることになる。

よって、不当仮差押に基づく損害賠償として、右仮差押執行の日の翌日から解放まで、一年につき六〇万円の割合による金員の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち被告が述べたとされる部分は否認し、その余は認める。

3  同3の合意内容は争う。原告は、昭和五五年七月二六日、被告が提出した見積仕様書どおりのフリーザーを、代金二三〇〇万円、納入場所原告の東村惣菜工場、完成引渡昭和五五年八月二〇日、代金支払方法はリース会社の支払規定(完成引渡後九〇日の手形払)によると定めて注文し、被告はこれを承諾した。売買契約は原告、被告間で成立しており、リース会社は代金支払いの方法として関与するにすぎない。

4  同4のうち、被告が昭和五五年九月八日原告に本件フリーザーを引渡したことは認める。注文どおりの仕様で設置した。

5  同5は争う。昭和五五年九月八日、検収を終えた直後、原告のパックにつめた商品がベルトからすべり落ちるという事故が生じた。これは、本件フリーザーがスパイラル式であるためその特有の性格としてベルトが心棒から外側にかけてやや下降気味となったからである。そこで被告は、ベルトの外枠にステンレスのバンドをとりつけ落下を防ぐよう修正した。

本件フリーザーは、しゅうまい、肉巻をパックにつめてコンベアベルトに流して冷却する措置であるが、前記見積仕様書では、しゅうまいのパックは横一二五ミリ、縦一九〇ミリ、高さ三〇ミリ、肉巻のパックは横一三七ミリ、縦一九〇ミリ、高さ三〇ミリとされていたので、被告は、渦巻状のコンベアベルトの上下の間隔を四四ミリとして設計し、原告もこれを了承して注文した。ところが原告の製品が不整形で、パックからはみ出していたため、コンベアベルトの下部に製品がふれて落下事故が発生した。雑菌の発生も、室内の清掃、消毒の不完全、冷却装置の洗浄不足等、機械使用者の責に帰すべきものである。

なお、被告は、昭和五五年九月一〇日頃、右落下事故を防ぐためコンベアベルトの上下の間隔を六五ミリに改修することとし、二、三日本件フリーザーの使用をとめるよう要請したが、原告は製造が忙しいからとめることはできないとして、一一月頃まで運転し続けた。しかも落下物をとりのぞかず、掃除を怠ったため雑菌による汚染と返品問題が生じ、本件紛争に至ったのである。

6  同6は争う。

7  同7のうち原告主張のとおり仮差押執行をしたことは認めるが、その余は争う。

第一二三九二号事件について

一  被告の請求原因

1  第八七一五号事件の請求原因1のとおり。

2  同事件の認否及び反論3、4のとおり。

3  原告は、所定のリース手続をしないから、直接被告に対し本件フリーザー代金を支払うべき義務がある。よって二三〇〇万円と、完成引渡後九〇日の手形の支払期日である昭和五五年一二月七日の翌日以降、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  原告の認否

第八七一五号事件の請求原因のとおり。(証拠)《省略》

理由

一  原告は、蒸しぎょうざ、しゅうまい、肉巻などの各種即席惣菜を製造し、これを各地の食料品店等へ販売すること等を業とする会社であり、被告は冷凍機械の製造販売を業とする会社であること、原告は、昭和五五年六月頃、被告に対し、しゅうまい、肉巻の自動式冷却装置の設計、設置納入を依頼し、被告は本件フリーザーを設計して同年七月八日原告に対し見積仕様書を提出したことは、当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、本件フリーザーを注文するに際し、右フリーザーを使用して冷却する自社製品は、一個二〇グラムのしゅうまい一二個を、縦一九〇ミリ、横一二五ミリ、深さ三〇ミリのトレーにつめたもの、一個五〇グラムの肉巻六本を縦一九〇ミリ、横一三七ミリ、深さ三〇ミリのトレーにつめたものであることを告げた。被告は、右製品を自動的に冷却するためのフリーザーとして、原告の担当者と協議のうえ、概略、生産能力は一時間にしゅうまい六〇〇〇個、肉巻一万個を冷却することができるものとすること、温度は上部の入口で三〇度Cのものを下部の出口では一二度Cまで冷却するものとしそのためフリーザー内部の温度はマイナス5度Cないしマイナス一〇度Cとすること、渦巻状のコンベアベルトは一二・五段、段差は一〇〇ミリ、有効空間は四四ミリとすることとして本件フリーザーを設計し、昭和五五年七月八日、代金二六〇〇万円、支払条件はリース扱いで完納後九〇日の約束手形によるという見積書を提出した。

2  原告は、群馬総合リース株式会社に本件フリーザーを買受けてもらい、同社からリースを受けることとして同社と交渉し、内諾を得たうえ被告とさらに交渉し、同月二六日、代金は二三〇〇万円とすることを合意して被告が提出した見積仕様書どおりのスパイラル式三〇R型トンネルフリーザー一式の製作納入を注文した。

3  被告は、右仕様書どおりのフリーザーを製作し、同年九月八日頃原告方東村惣菜工場内に設置して原告にこれを引渡した。

4  原告は、被告の立会いのもとに試運転をしたところ、しゅうまい、肉巻の生産が間に合わずフリーザー内に入れた品物が少量であったせいもあって順調に作動したので、注文どおりの機能を有するものと考えて被告に対し検収完了証明書を交付した。

5  当日夕方、製品ができてフル操業に入ったところ、渦巻状のベルトの回転に伴い遠心力が働いてベルト上の製品がだんだん外側へ移動していくことと、ベルトの外側が内側より低く傾斜することにより製品がベルトから落下することが判明した。そこで被告は、ベルトを水平に保つためコンベアが回転する外側の枠にステンレスのバンドをとりつけて補修した。

9 しかしなお製品が落下することがあったので、被告は原告の製品の高さがふぞろいで深さ三〇ミリのトレーからはみだし、これが上段のベルトにふれるからであると判断して、同月一〇日頃原告に対しコンベアを一〇・五段にし、有効空間四四ミリを六五ミリにすることを提案し、右改修のため三、四日本件フリーザーの使用を中止するよう申出た。ところが原告は、生産が忙しいことを理由にこれを断り、被告が九月二三日前後、一〇月一〇日前後に右各休日を間にはさみ三、四日本件フリーザーの使用を中止して修理することを申し出たのも断って、結局年末年始の休日を利用して補修することを承諾した。

7  このように、いったん検収証明書が発行されたにもかかわらず、本件フリーザーが完全な機能を備えていなかったため、リース会社との話合いは進展せず、原告とリース会社間のリース契約、被告とリース会社間の売買契約はいずれも締結されなかった。

8  原告は本件フリーザーを使用して生産を続けていたところ、取り除かれずに残っていた落下物から発生した雑菌によって製品が汚染され、出荷先から腐敗による返品が相次いだため、同年一一月頃しゅうまい、肉巻の生産を中止し、被告に対し本件フリーザーの収去を求めるようになった。そのため被告が準備していた改修はなされないままとなった。

以上の事実が認められる。

三  原告は、本件フリーザーの買主はリース会社であり、原告と被告との間にはなんら契約関係はないとして、代金債務不存在確認等を求め、東村惣菜工場の賃借権に基づく妨害排除請求として本件フリーザーの収去を求めるので考える。

1  一般に、リース契約は、

(一)  ユーザーとディーラー間で目的物の取引の細目を決定する。

(二)  ユーザーがリース会社にリース契約を申込む。

(三)  リース会社はユーザーの信用調査のうえ契約条件を示し、ユーザーとの間でリース契約を結ぶ。

(四)  リース会社とディーラー間でリース物件の売買契約を結ぶ。

(五)  ディーラーからユーザーへ目的物を搬入する。

(六)  ユーザーが目的物を検査し、瑕疵がないときリース会社へ借受証(検収証)を交付する。

(七)  借受証の交付とともにリース料支払いのためユーザーがリース会社へ約束手形を一括差入れる。

(八)  リース会社はディーラーに対し目的物の売買代金支払いのため約束手形を交付する。

という過程を経て行われるものであるが、前記認定事実によれば、本件フリーザーに関しては、原告と被告との間で(一)の合意がなされたのち(三)、(四)の契約締結前に(五)の納品が行われ、(六)の検収を終えた直後に製品の落下という瑕疵が発見されたため、結局リース会社との間にはなんら契約が締結されないままになったというのである。リース会社が買主として代金債務を負担するのは、注文者である原告との間でリース契約が成立し、原告からリース料の支払いを受けることができるようになるのが前提である。原告と被告との間で代金の支払いはリース会社の支払規定による旨合意されているからといって、リース会社が当然に買主となるいわれはない。

2  次に、リース会社の関与がなかった場合の原告、被告間の関係については、注文当時の当事者の意思解釈によって決すべきものと考える。

「代金支払方法はリース会社の支払規定による」こととしてリース会社の関与を原告、被告間で合意したのは、売主である被告にとっては代金を一括して早期に支払いを受け得る利益があること、注文者である原告にとってはリース会社にいったん本件フリーザーを買受けてもらい、これを賃借するという形式をとることにより、実質的には長期分割払いの方法で代金を支払うことができる利益があることによるものであることは、リース制度利用の趣旨に照らして明らかであるから、リース業者を選定し、その間にリース契約を締結してリース業者に目的物件を買受けてもらう努力は、本来分割弁済という利益を受ける債務者である原告がなすべきであり、リース業者の関与がないときは、注文者原告、売主被告間の、本件フリーザーの供給を受けるという基本契約(純然たる売買契約――特定物の売買――とみるか、請負的要素が加わったものとみるかはともかく)上の権利、義務として、原告が本件フリーザーの所有権を取得し、その瑕疵について担保責任を追及し得ること或いは修補を求め得ることは別として、代金支払義務を負うものと解するのが相当である。

よって、原告の本訴請求はすべて理由がなく、棄却を免れない。

四  次に、被告の代金請求について考える。

1  前判示のとおり、当初予定されていたリース会社の介在による代金支払方法について合意をみるに至っていない以上、被告に対し本件フリーザーの製作納入を注文し、代金を二三〇〇万円と合意した原告がその支払義務を負うべきであるから、被告の本訴請求は、基本的にはこれを認容すべきである。

しかしながら、前記認定のとおり、本件フリーザーにはコンベア上を流れる製品が上段のコンベアにふれて落下するという瑕疵があること、及び被告は原告に対し右瑕疵の修補として、一二・五段のコンベアを一〇・五段とし、上下のコンベア間の有効間隔を四四ミリから六五ミリにする改造をすることを申し出、原告もこれを承諾していたことが認められるのであるから、被告は、右補修工事を完了しない限り、本件フリーザーを完成させたものということはできず、代金の支払いを請求しえないと解するのが相当である。

2  原告は、いったん被告が右改修工事をすることを承諾しながら、雑菌による汚染問題が発生したのち右工事の施工を拒否しているのであるが、前記認定のとおり、落下事故があったとはいえ昭和五五年九月中旬頃から同年一一月頃まで、瑕疵修補のための三、四日の使用中止の要請も拒否するほど本件フリーザーの使用を続けていたのであるし、《証拠省略》によれば、雑菌による本件フリーザーの汚染は、掃除、消毒を励行することによって防止できるものであることが認められること、《証拠省略》によれば、右改造を加えても当初の仕様書による性能を保持することができることが認められることをあわせ考えると、本件フリーザーに存する瑕疵は補修可能であり、これによって原告が本件フリーザーを注文した目的を達することができないほどのものと認めることはできない。原告は、被告の行う改修工事を拒否することはできないものというべきである。

五  以上により、原告の請求をいずれも棄却し、被告の請求は被告が本件フリーザーの改修工事を完了させることを前提として認容し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。仮執行宣言については相当ではないから、これを付さない。

(裁判官 大城光代)

〈以下省略〉

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